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「父親が亡くなって、借金が500万円あることが分かった…」
先日、同僚がこう言って呆然としていました。
実家の整理をしていたら、見たこともない金融機関からの督促状が次々と出てきたそうです。
「まさか、こんな借金があるなんて…」
親の財産状況を把握していなかった。
その結果、知らない借金まで相続してしまうリスクに直面したのです。
これは他人事ではありません。
40代・50代のあなたも、親の高齢化に伴い、いつこの問題に直面するか分かりません。
今日は、親の借金から家族を守るための「相続放棄」について、
最低限これだけは知っておきたいポイントをわかりやすくお伝えします。
期限は「3ヶ月」──熟慮期間を過ぎると取り返しがつかない
相続放棄には、非常に厳しいタイムリミットがあります。
原則として、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内(熟慮期間)に家庭裁判所へ申し立てなければなりません。
3ヶ月の起算点:いつから数える?
原則:
「被相続人が亡くなったこと」と「自分が相続人であること」を知った時から3ヶ月です。
【パターン1:通常のケース】
父が亡くなった日 → その日から3ヶ月
【パターン2:借金を後から知ったケース】
父が亡くなった当時は「財産はほぼゼロ」と信じていたが、2ヶ月後に督促状で多額の借金が判明
→ そのように信じていたことに正当な理由があれば、「借金の存在を知った日」から
3ヶ月と判断される可能性があります(最高裁昭和59年4月27日判決)。
【パターン3:疎遠だった親のケース】
父の死亡を3ヶ月後に知った
→ 死亡を知り、自分が相続人だと分かった日から3ヶ月
ただし、「知らなかったことに正当な理由があるかどうか」は最終的に裁判所が判断します。
個別の事情によって結論が変わるため、必ず専門家に相談してください。
相続放棄とは──「最初から相続人ではなかった」ことにする法的手段
「相続放棄」とは、文字通り相続する権利を一切捨てる手続きです。
家庭裁判所に申し立てを行い受理されると、法律上、あなたは「最初から相続人ではなかった」ものとみなされます。
メリット:
被相続人の借金、未払いの税金、連帯保証人としての地位など、原則としてすべての負債から解放されます。注意点:
「特定の借金だけ捨てて、実家はもらう」といったつまみ食いはできません。プラスの財産もマイナスの財産もすべて手放すことになります。
相続放棄は、亡くなった人の負債を家族が無理に背負って共倒れになるのを防ぎ、再出発を支えるセーフティネットだと考えるとイメージしやすいと思います。
相続放棄を検討すべきケース:チェックリスト
以下に1つでも当てはまる場合、相続放棄を真剣に検討してください。
□ 親に多額の借金があることが分かった
□ 親が誰かの連帯保証人になっていた
□ 親と長年疎遠で、財産状況が全く分からない
□ 税金や年金の滞納があることが判明した
□ 親が事業をしていて、負債が多そう
□ 見覚えのない金融機関から督促状が届いた
□ 相続人同士の関係が悪く、トラブルを避けたい
1つでも該当するなら、すぐに財産調査を始め、専門家に相談してください。
絶対にやってはいけない「単純承認」の罠──預金引き出しで放棄が無効に
相続放棄を検討しているなら、不用意に遺産に触れてはいけません。
法律には「単純承認」(相続を受け入れたとみなされる行為)という規定があり、
特定の行動をとると「相続する意思がある」とみなされ、二度と放棄ができなくなります。
やってはいけない例:
- 親の預金を引き出して自分の支払いに充てる。
【NG例】
親の預金口座から50万円を引き出して、自分の住宅ローン返済に充てた
→ これは「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなります【OK例】
親の預金から10万円を引き出して、葬儀費用に充てた
→ 社会通念上必要な範囲であれば、単純承認とみなされない場合があります
(ただし、金額や状況によるため、専門家への相談が必須) 価値のある遺品(車、宝石など)を売却・処分する。
被相続人の名義で契約の更新や解約を行う。(内容による)
- 親の預金を引き出して自分の支払いに充てる。
「葬儀費用を親の財布から出す」程度であれば認められるケースもありますが、判断は非常にデリケートです。
下手に動いて「相続放棄の権利」という最大のカードを無効にしてしまうのは、相続における最大の機会損失と言えるでしょう。
「限定承認」という選択肢もある
相続には3つの選択肢があります。
1. 単純承認(すべて相続)
プラスもマイナスも、全てを無条件に引き継ぐ。
2. 相続放棄(すべて拒否)
プラスもマイナスも、すべて相続しない。
3. 限定承認(条件付き相続)
プラスの財産の範囲内でマイナスを引き受ける
例:
・プラスの財産:1,000万円
・マイナスの財産:1,500万円
→ 1,000万円の範囲内で債務を返済し、残り500万円については支払い義務を負わないイメージです。
限定承認のデメリット:
相続人全員の同意が必要(一人でも反対すると不可能)
財産目録の作成など手続きが複雑で、専門家への依頼がほぼ必須
司法統計では、相続放棄が年間十数万件あるのに対し、限定承認の利用件数は全国で600〜800件程度と非常に少ない。
結論:
実務上は「相続放棄」か「単純承認」の二択になることがほとんどです。
迷ったら必ず専門家に相談を
相続放棄は一度してしまうと取り消せません。
また、判断を誤ると「単純承認」とみなされ、借金を背負うことになります。
相談先
司法書士:
・相続放棄の書類作成・申し立て代行
・ 費用:3〜5万円程度
弁護士:
・複雑なケース(債権者とのトラブルなど)
・費用:5〜10万円程度
無料相談窓口:
・法テラス(経済的に余裕がない方向け)
・市区町村の無料法律相談
重要:
3ヶ月の期限が迫っている場合は、即座に専門家に相談してください。
「後で考える」は通用しません。
自分が放棄しても終わらない──次順位の親族へ移る「借金のバトン」
ここが最も重要なポイントです。
あなたが相続放棄をすると、その権利(および義務)は次順位の相続人へスライドします。
例えば、第一順位の子供全員が放棄すれば、
相続権は第二順位の「親」、
親がいなければ第三順位の「兄弟姉妹」へと移ります。
自分だけが放棄して安心していると、親戚の元に突然「借金の督促」が届き、親族間の信頼関係が崩壊するリスクがあります。
負の遺産から家族全員を守るためには、放棄する旨を次順位の親族へ事前に共有する、
あるいは専門家に依頼して親族一斉に放棄の手続きをとるといった、プロジェクト全体を俯瞰したマネジメントが求められます。
相続放棄の手続き:5つのステップ
ステップ1:財産調査(すぐに開始)
□ 預貯金通帳の確認
□ 不動産の登記簿謄本取得
□ 信用情報機関への照会(借金の有無確認)
・ CIC(クレジットカード・ローン)
・JICC(消費者金融)
・ 全国銀行個人信用情報センター(銀行)
ステップ2:書類準備
必要書類:
・相続放棄申述書(家庭裁判所のHPからダウンロード可能)
・ 被相続人の住民票除票または戸籍附票
・申述人(自分)の戸籍謄本
・ 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
費用:約1,000円(収入印紙800円+郵便切手)
ステップ3:家庭裁判所への申し立て
・ 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
・ 窓口提出または郵送
・オンライン申請は不可
ステップ4:照会書への回答
申し立てから1〜2週間ほどで、家庭裁判所から「照会書」が届きます。
・なぜ放棄するのか
・ 財産の有無
・ 遺産に手をつけていないか
などの質問に、事実に基づいて丁寧に回答します。
ステップ5:受理通知書の受領
問題がなければ、数週間後に「相続放棄申述受理通知書」が郵送されます。
この書類を債権者に提示することで、請求を止めることができます。
重要:
「相続放棄申述受理証明書」(再発行可能な公的証明書)も取得しておくと安心です。
【まとめ】相続放棄は、家族を守るための「戦略的判断」
親の借金問題に直面したとき、相続放棄は決して逃げではなく、
家族を守るための合理的な判断です。
重要ポイント5つ
1. 期限は絶対:
「知った時から3ヶ月以内」が原則。放置すると取り返しがつかない
2. 財産に触れるな:
預金引き出しや遺品売却は「単純承認」と評価されるおそれがある。
3. 次順位に配慮:
自分が放棄すると、親や兄弟姉妹に相続権(借金)が移る。
4. 専門家に相談:
判断を誤ると一生の後悔につながる。費用は「保険料」と考える。
5. 今すぐ調査:
親が元気なうちに財産状況を把握し、いざという時の相談先を決めておく。
今日からできる3つのアクション
アクション1:親の財産状況を確認する(今週)
親が元気なうちに、さりげなく確認しましょう。
「万が一のことがあったら、どこに連絡すればいい?」
という聞き方なら、不自然ではありません。
アクション2:信用情報機関への照会方法を調べる(今月)
CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センター
この3つで、ほとんどの借金が分かります。
この3つを押さえておけば、ローンやカードの借入状況の多くを把握できます。
アクション3:近くの司法書士・弁護士事務所をリストアップ(今月)
いざという時に慌てないよう、
「相続・相続放棄に強い専門家」をいくつか候補としてメモしておきましょう。
40〜50代のあなたへ
40代・50代のあなたは、もはや感情だけで動く時期ではありません。
法律というルールを正しく理解し、冷静に手続きを進めることで、負の連鎖をここで断ち切ることができます。
「知らなかった」では済まされないのが相続の世界です。
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よくある質問
Q1. 相続放棄をしたら、親の遺品も一切もらえないの?
A. 原則として、経済的価値のあるものは一切もらえません。
ただし、写真や手紙など、経済的価値がほとんどない思い出の品であれば、
実務上は問題にならないケースが多いです。
判断が難しい場合は、必ず専門家に相談してください。
Q2. 葬儀費用は親の預金から出してもいい?
A. 社会通念上必要な範囲であれば認められる可能性がありますが、
金額や状況によって判断が分かれます。
安全策としては、自分のお金で立て替え、後から相続人全員で分担するのがベストです。
Q3. 生命保険金は受け取れる?
A. 受取人が指定されている生命保険金は「相続財産ではない」ため、
相続放棄をしても受け取れます。
これは相続放棄のメリットの一つです。
Q4. 相続放棄をすると、兄弟姉妹に迷惑がかかる?
A. 第一順位の子供全員が放棄すると、第二順位(親)、第三順位(兄弟姉妹)に
相続権が移ります。
必ず事前に親族に伝え、全員で同時に放棄するのが理想的です。
Q5. 一度放棄したら、やっぱり取り消せる?
A. 原則として取り消しはできません。
ただし、詐欺や強迫による放棄だった場合は、取り消しが認められることがあります。
慎重に判断してください。
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【次回予告】
次回は「財産調査マニュアル」について解説します。
次回もお楽しみに






